祗園をはじめ、花街ではその人ごとに上がるお茶屋はんが決まってるんどす。(宿坊・しゅくぼうて云うとります)最初はどなたか、そこの常連さんに連れて行って貰うしかおへんのどす。で二度、三度と連れて貰うてるあいさに、そこのおかん(女将)の面接が暗黙のうちに行われとるんどす。この人はうちの店に合うてるかいな、店のことを大事に思うてくれはるかいなて、そこでおかんからOKが出たら、晴れて一人でも行けるようになんのどす。そんときから請求が自分とこへまわって来ます。それまでの分は紹介者にすべて行くのんどすけど。
しばらくして少し慣れてきて、「あそこのお茶屋はんに行ってみたいなぁ」て思うても後の祭どす。バーやクラブやったらどこなと気に入った店に行けますけど、お茶屋はんは原則的に一つの花街で一軒だけて決まっとります。せやから自分の宿坊ちゅうのんは運命的出会いみたいなもんどすなぁ。そない思うてご縁を大切にして、うちの宿坊をできる限り応援さして貰うとります。おかんに内緒でよそのお茶屋はんに行こ思うても、まずそのお店で上げてくれまへん。万が一上がることがでけても、その日のうちにみなばれてしまうんどす。IT革命以前に花街の情報網は進んでおりますえ。
それにそんなことばっかししてると、「廊下とんび」やとか「伯耆の守・ほうきのかみ」とか云うレッテルを貼られてしまいます。そうなると花街では死んだも同然、どこのお茶屋はんも、どの舞・芸妓はんも相手にはしてくれまへん。どこの世界でも信用を築くのんは長いことかかりますけど、失うのんはあっちゅう間どすえ。但し、大きな顔してよそのお茶屋はんに行く方法もおます。「お呼ばれ」ちゅうんどすけど、誰ぞ知りあいに他所のお茶屋はんの常連さんがいてたら、そのお方に連れて貰うのんどす。これやとどこからも文句は云われしまへん。ただし、そこの請求は知りあいのお方へ行きますさかい、後でお返しはせなあきまへんわなぁ。
をどりとかで綺麗な芸妓はん見つけて、「おかん、○×ちゃんいっぺん呼んでぇな」ちゅうても、「ああ、あの妓なぁ、いっつも売れてはるさかいになぁ」とかなんとかはぐらかされて、結局呼んではくれまへん。芸妓はんのしてはるお店でも、「いっぺん△×行きたいねんけど」ちゅうたら「そんなとこ行かいでもよろし」の一言。最初のうちは、なんで出しおしみしてるんやて思うたんどすけど、後になって思うたらその妓はうちには向いてへんとおかんが判断して会わしてはくれはらへんことどした。あんたの甲斐性ではあの妓は無理やとか、合いすぎてはまってしまうと困るやろからとか、口には出さはらへんけど常にお客の立場を考えてくれたはります。
せやから花街では、おかんの云うことに従うてんのが一番どす。自分に合うた遊び方を教えてくれはりますし、危ないとこへは行かさしまへん。あほなことしよ思うてたら「そんなあほなこと、せんとぉきやす」て叱られます。これにはええ年した男はんも、立派な肩書のお方も皆おとなしゅう云うこと聞いてはりますえ。まるで自分の母親に云われたみたいに。そう、お茶屋はんちゅうとこはもう一つの我が家みたいなもんどす。自分の好きなもんや、嫌いなことみんな覚えてくれてはって、気ぃ使わんでもみぃんな段取りしてくれはります。皆はんも変なとこで、無愛想な女の子に気ぃ使うて金使うて遊んではるんやったら、いっぺんお茶屋はんへ行ってみたらどないどす?
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